ジグムント・フロイト『夢判断』(高橋義孝訳:新潮文庫、2005年)
第6章「夢の作業」(パートEまで)
A 圧縮の作業
夢思想(潜在内容)と夢内容(顕在内容)を区別してこれらの両者の関係を探究する。
「顕在内容と潜在内容とのあいだのアンバランスからして、夢形成にさいしては心的材料に対してたいへんな圧縮が加えられたものと考える」(p476)
ちなみに起床した時に夢を忘れていることとは違うことが説明されている。
結論:圧縮とは省略である
問い「全体の夢思想のうちの、わずかなものだけが夢内容の中に採用されるのだとすれば、そのさい行われる選抜試験の基準となる条件はいかなるものであろうか」(p480)
(一) 植物学研究書の夢
前述したフロイト自身の夢
「夢の顕在内容の要素の一つひとつは、夢の潜在内容の中にあっては多面的に、重層的にその代弁者を持っている」(p484)
(二) 美しい夢
閉所恐怖症の男子患者の夢
(三) 黄金虫の夢
重い不安状態に苦しんでいる中年女性の夢
ここで再度、「イルマの注射の夢」を採りあげられる。
「夢圧縮のために、総合人物、混同人物の作製は、夢における圧縮作業の主要な作業手段のひとつである」(p501)
夢形成における単純な移動Vershiebung →圧縮
「夢の語変造は、妄想症に見られる周知の語変造や、ヒステリー症および強迫観念にも見られる語変造に酷似している」「夢におけるばかげた言語形成物の分析は、夢の作業の圧縮能力を示すための絶好の材料である」(pp519―520)
B 移動の作業
「夢思想の中では明らかに価値度の低かった別の要素がそれらの代わりに夢内容中に現れてくるという場合が珍しくはない(p524)
夢内容の多面的被制約性Uberdeterminierung は意義重大なポイントである。
夢形成においては個々の要素の心的強度の転移Ubertragungおよび移動Vershiebungが行われる → 夢の移動作用
「夢移動は、内部心的防衛であるところの、あの検閲の影響によって起ると考えて差し支えない」(p528)
結論:夢の作業は移動作用と圧縮作用からできている
「われわれはさしあたっては、夢の中に入り込んでくる諸要素が充たさなければならない第二の条件として、次の一言をいっておこう。すなわち、それらの諸要素は抵抗の検閲をくぐりぬけていなければならないのである」(p530)
C 夢の表現手段のいろいろ(下巻)
「夢は、類似性・合致・共通性を、夢材料にすでに存在している統一性、あるいは新たに作りあげられる統一性へと集結させることによって表現する前者の場合はこれを同一化、後者の場合はこれを混合化と呼ぶことができよう」(pp23―24」)
人間 → 同一化、事物 → 混合化
「夢は徹頭徹尾利己的である」(p28)
「夢の形式ないしは夢を見る形式は、じつに驚くほどしばしば、隠蔽された内容の表現のために利用される」(p43)
≪問題≫
不安や恐怖については夢の中で抑制の感じと結びついていたらそこでの問題は一つの性的衝動である、として差し支えないのか?
D 表現可能性への顧慮
「移動には別にもうひとつ種類があり、それは問題になっている思想の言語的表現の取換えということに現れている」(p56)
「こうして言葉の洒落の全領域が夢の作業のために動員される。夢の形成のさいに言葉に負わされる大きな役割を訝ってはならない」(p58)
「象徴化はその表現可能性のゆえに、多くの場合はまたその検閲通過能力のゆえに、夢形成の諸要請にほかのものよりもよりよく応じうるがためである(p73)
≪問題≫
ヒステリーと性欲の強い結びつきについてどう考えるか?
E 夢における象徴的表現―続・類型夢
*フロイトのシュテーケルの研究(象徴的解釈)に対する評価
三という数は男子性器の象徴など、多くの例が挙げられている。
(一) 男子性器の象徴としての帽子
(二) 小さなものは性器である―車にひかれるのは性交の象徴である
(三) 建物・階段・坑による性器表現
(四) 男子性器は人物によって、女子のそれは風景によって象徴される
(五) 子供たちの去勢夢
(六) 尿排泄象徴について
(七) 階段の夢
(八) 趣の変わった階段夢
(九) 現実感と繰返しの表現
(十) 健康者の夢における象徴の問題に関して
(十一)ビスマルクの見た一つの夢
(十二)化学者の夢
フロイトは類型夢のさらなる考察をすすめる。
例:「歯の刺激の夢」
男性の場合は思春期の手淫欲望、「一本抜く」という下品な言い回しとの関連。
女性の場合は出産夢の意義を持つ(ユング、ランクなどの研究)。
「すべての夢は一個の性的解釈を要求するという主張は、私の夢判断のあずかり知らぬところのものである」(p151)
≪問題≫
ここでフロイトはみずから汎性欲主義的なものを退けているといえるのか?
夢分析に関する文献
フロイト自身による夢理論の修正は、『続・精神分析入門』(翻訳は新潮文庫等)で簡単に取上げられている。戦争神経症やトラウマの発見が、彼に夢理論の修正を余儀なくさせたと思われる。
現代の夢分析に関しては、『夢分析』新宮一成(岩波新書)が読みやすい。さらに専門的な内容としては、同じ著者による『夢と構造』(弘文堂)がある。ユン グ派でも夢分析は重要視されるが、ここでは仏道修行と夢見の技法の関連性を分析したものとして『明恵 夢を生きる』河合隼雄(講談社プラスアルファ文庫) をあげておく。