『第二のデモクラテス』セプールベダ(1490~1573)、岩波文庫版
本書はラス・カサス最大の論敵であるセプールベダによる、インディオ征服戦争是認論の精髄である。
このレジュメは、文庫版では冒頭に置かれている『アポロギア』から作成した。『第二のデモクラテス』は対話篇であり、その内容をセプールベダみずから要約したものだからである。
・ラミレスの問題提起(インディオ征服戦争は不当という立場)
「問題は、予めインディオたちから財産を奪い、彼らを征服しておけば、説教官はずっと容易く彼らを説得できるという理由から、彼らに戦争を仕掛け、領土、田畑、財産を強奪したり、彼らが抵抗した場合、殺害したりするのが正義に適っているかどうか(p14)
・セプールベダによる問題提起(ラミレスの問題を読み替えている)
「私たちがインディオと呼んでいる野蛮人を残忍な習慣、偶像崇拝、それに神に背く儀式から解き放ち、彼らにキリスト教を受け入れる心の準備を整えさせるために、キリスト教徒の支配に服従させるのは正当か否か」(p15)
第一部
セプールベダの結論は、キリスト教徒がその野蛮人たちを服従させ、支配するのはきわめて正当である、というものである。
・その理由
① インディオたちはキリスト教の支配下にはいる以前は残忍な悪習に染まっていた
② 自然法に反する大罪に陥っている
③ 人間は誰しも、自然法に従い、無辜な人々が罪もなく殺されるのを阻止しなければならない
④ 人々を矯正し救霊の道に導くのは、たとえ相手が望まなくても、善意に基づいて実行したいと望む義務である
・勧告を行っても効果がない理由
① 彼ら野蛮人に勧告を行うことは容易ではない
② 勧告はあらゆる障害を克服して実施されても、恐怖がなければほとんど効果がない
第二部
征服の正当性を否定する人たちが論拠にしている七つの理由。セプールベダはそれぞれに対して反論を行う。
① 不信仰者に対する戦争では、人間に加えられた不正のみならず、神に加えられた不正にたいしても報復がなされる。
② 偶像崇拝者に不敬な儀式を放棄し、自然法を遵守し、福音の説教者の言うことに耳を傾けさせる義務を負わせるために、キリスト教徒の支配に従わせるのは正当である。
③ 聖アウグスティヌスなどの教えるところでは、キリスト教を奉じる国王や君主が力を備える時が到来すれば、異教徒にも異端者にも強制力を行使するよう命じた。
④ 野蛮人を信仰へ導くのに彼らを予め征服するより、説教のみによる方が効果的であるとは思えない。
⑤ 野蛮人との戦争の場合、勧告には二種類あると考えられる。ただ、彼らには勧告の効果はない(前に述べたとおり)。
⑥ 戦争遂行者が不正行為や邪悪な行動を行なったとしても、戦争がまったくできないということはない。
⑦ 使徒の使命にふさわしいのは、不信仰者にキリストの信仰を奉じさせようと努力することと、福音を宣べ伝えることを最善を尽くして実行することである。
【問】現代の国際法から考えてみる
領土の取得方法の中には先占と征服があるが、この征服戦争は領域権限となることができるのか?
【参考】アクィナスの法理論の図解
永遠法lex aeterna 神的理念
↓
自然法 lex naturalis 被造物が分有するとき働く
↓
実定法 ius positivum → 神法 聖書に書かれている神の法
人定法 → 教会法(カノン法)
国法
万民法ius gentium 古代ローマ以来の伝統
【参考文献】
1 ラス・カサス『インディアスの破壊についての簡潔な報告』染田秀勝訳(岩波文庫)
ぜひこれも併読したい。染田氏の新訳版に付けられた解説は必読。一つの文書がいかに歴史修正主義者に利用されてきたのかがよくわかる。
2 世界の歴史18 - ラテンアメリカ文明の興亡 (中公文庫)
中南米の歴史を知るにはこの本がよくまとまっていると思う。『南北アメリカの歴史』(放送大学教育振興会)は北アメリカの歴史も含めてコンパクトにまとめられている。