プラトン『饗宴』(久保勉 訳:岩波文庫)

【冒頭】

この対話篇はアリストデモス(祝宴の出席者)から話を聞いたアポロドロスの話をプラトンが書いているという、いわば二重間接話法の形が取られている。登場人物が順番に演説していく。そこでの主題は、エロスを賛美することである。

【ファイドロス】ソクラテスの弟子

 「エロスは神々のうちの最年長者であり、もっとも崇敬すべき者であり、また徳と幸福との獲得に当たっては生前死後を通じて人類にとってもっとも権威ある指導者である」[七]

【パウサニヤス】ソフィスト、アガトンの愛人

「必然にまた二種のエロスがなければならぬ。」[八]

万人向きのもの(パンデモス)と天上のもの(ウラニオス)、つまり少年愛である。「九」

「いったいそれ自体において美しいとか醜いとかいうものがある訳ではなく、むしろ美しい仕方で為されたことが美しく、醜い仕方で為されたことが醜いのである」[十]

「悪しき者とは魂よりもさらに多く肉体を愛するかの卑俗なる愛者をいう。(中略)これに反して気高き性格を愛する者は生涯を通じて変わることがない」

【エリュキシマコス】医者

「要するにこの神は驚嘆すべき神であって、人間の事といわず神々の事といわず、一切の上にその勢力を張っているのである」[十二]

【アリストファネス】喜劇作家

人間の本性(フュシス)とその経歴。[十四]

男女について

「さて人間の原形がかく切断せられてこのかた、いずれの半身も他の半身にあこがれて、ふたたびこれと一緒になろうとした」[十五]

「かくてわれわれは、いずれも人間の割符(シュンボロン)に過ぎん」[十六]

「それだからこそ全きものに対する憧憬と追及とはエロスと呼ばれているものである」

【アガトン】悲劇詩人、ゴルギヤスの弟子、祝宴は彼の家で催された

「エロスは、すべてのうちでもっとも美しく、もっとも優れており、したがってまたもっとも福なる神である」[十八]

「エロスの徳についてはしかし、これから語られねばならぬ。その最重要な点は、エロスが不正を加えもせずまた加えられもせぬことである」[十九]

「公正以外にエロスがもっとも多く関与するところの徳は自制である」

【ソクラテス】

アガトンとの問答。エロスが何者かに対する愛であるということなのか、それともそうじゃないのか、など。[二十一]

【ディオティマ】巫女

「正しき意見とは、明らかに智見と無知との中間に位するようなものというべきでしょう」[二十二]

「エロスとは(中略)、滅ぶべき者と滅びざる者との中間に在る者なのです。偉大な神霊なのです」[二十三]

「智見のうちでもはるかに他に越えて最高で最美なのは国と家との統制に関するもので、その名は自制(σωφροσυνη)と公正とである」[二十七]

「それ(正しい道)はすなわち地上の個々の美しきものから出発して、かの最高美を目指して絶えずいよいよ高く昇り行くこと、ちょうど梯子の階段を昇るよう にし、一つの美しき肉体から二つのへ、二つのからあらゆる美しき肉体へ、美しき肉体から美しき職業活動へ、次には美しき職業活動から美しき学問へと進み、 さらにそれらの学問から出発してついにはかの美そのものの学問に外ならぬ学問に到達して、結局美の本質を認識するまでになることを意味する」[二十九]

【アルキビヤデス】

ソクラテスを頌賛する。[三十二]

 

≪参考≫

1. フーコー『性の歴史』第二巻(新潮社)

第四章の2で『饗宴』が引用されている。少年愛と哲学的禁欲主義が結び付けられている。

2. ヘルダーリン詩集(岩波文庫)

プラトンの対話篇に出てくるディオティマの名前を題名にした詩が収められている。