フレドリック・ジェイムソン『政治的無意識』(平凡社ライブラリー)

第2章「魔術的物語」

〈6〉「不在」の第三項=歴史を読み解く

[構造的規範とテクストの逸脱についての]「分析作業が二項関係ではなく、むしろ三項関係にもとづく過程であること、そして、そのずっと複雑な作業が、構造分析から、規範と逸脱についての従来とはかなり異なったシステムを導き出す」p255

「この完全な構造モデルの弁証法的なところは、その第三項が実はつねに不在であること、(略)表象不可能であることである」p255

「この分析における第三の変数は、必然的に歴史そのもの、すなわち不在の原因なのである」p255

[これら三つの変数間の関係の]「《結合》(コンビナトワール)においては、どれかひとつの項の体系的な変更や交換によって――他の二変数に確定的な変化が起こるため――全体系をつくりあげている明瞭な関係を読み取ることが可能になる。より深い物語構造から個々のテクストがズレていることに気づくなら、 ディスクールのレベルで物語構造の完全な実現や複製を妨げたもの、つまり歴史的状況における確定的な変化に私たちの注意がむくはずである」pp255- 256

→テクスト内の「不在」が物語構造の深層においてズレを生じ、その「不在」に気づくことによってテクストが依拠する歴史的状況があぶり出される。

 

「様式(モード)の観点からのジャンル解釈は、最終的にイデオロギー素、物語パラダイム、そしてさまざまなジャンルの言説の沈殿――これらはすべて本質的に文化的・上部構造的現象である――へと私たちを導く。そのとき、構造分析の補完作業として、不在で表象することはできないけれども下部構造にあって上部構造を制限する体系を、いわば否定的に再構築すること、つまり含意や予想によって想定することが必要となる」p257

→上部構造のジャンル解釈によって下部構造を再構築・想定する。

 

「「第三項」つまり歴史状況とテクストとの関係は、因果関係としてではなく(略)、むしろ、他の項を制限する状況として了解されている。ここでは歴史的契機は、以前に有効であった、あるかぎられた数の可能な形式を締め出し禁ずるもの、一定数の新たな形式を切り拓くもの、として理解されるのである」p258

→歴史状況は物語を禁止するとともに、それに対する新たな形式を生みだす契機となる。

 

pp259-262 ロマンスの歴史的読解

「この不思議なテクスト[アイヒェンドルフの小説]の呪文にかかれば、フランス革命は幻覚だったことになり、ナポレオン世界戦争当時の何十年にもわたる、ぞっとするような階級闘争は、たんなる悪夢のようなものへと、ぼやけ色褪せてしまうのである」p262

→象徴的行為としての小説内の「不在」としての「歴史」が暴き出される具体例。ロマンスとは歴史への象徴的行為である。