シェリー著 小林章夫訳『フランケンシュタイン』(光文社古典新訳文庫)

 

まえがき(1831年改定第3版、著者名は1826年の第2版以降明らかに)

・執筆の経緯。

・文化的な素養にあふれた両親(ウィリアム・ゴドウィン、メアリ・ウルストンクラフト)の間に生まれ、その後辿った文学少女としての経歴。

・スコットランドでの経験の重要性。

・1816年夏、スイス、レマン湖畔にあるバイロンの別荘において行われた「幽霊物語」の競作。当時のドイツの恐怖小説等の影響。ポリドリによって『ドラキュラ』の原型たる「吸血鬼」が書かれる。

・エラズマス・ダーウィン、ガルヴァーニ電流の重要性。

・「とはいっても、事件一つ書くのにも、あるいは一つながりの感情を描くのにも、夫の助けを借りたことはない」?(p. 17)

・「わが醜い子供」(p. 17, my hideous progeny)

・「物語の一部を変更したり、あるいは新しい考えや状況を組み入れたりはしていない」?(p. 18)

 

序文(1818年初版、夫パーシー・ビッシュによるものだが、全体は匿名出版)

 ・書評子や世間からの非難に対する予防線が張られている。古典文学の規範を犯していない、道徳的な堕落をもたらすものではない、など。

 

フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス 

 ・副題の意義――人類の創造者、文明の発展の源としての「火」を人間に与えた存在、ゼウスの暴虐への反逆者として。→アイスキュロス『縛られたプロメテウス』、パーシー・ビッシュ・シェリー『プロメテウス解縛』。

 ・『失楽園』からのエピグラフ。アダムの言葉。ゴドウィンへの献辞→当初パーシーの著かと疑われた原因。

 

(手紙1)

 ・語りの枠構造の一つ目、ロバート・ウォルトンから姉マーガレット・サヴィルへの書簡。頭文字MS。設定は18世紀。ロシアから北極の磁力解明の探検を目指す。名声欲。当時、旅行記も人気ジャンルであった背景。

(手紙2)

 ・大海原での航海にあたって孤独が辛い。コールリッジの『老水夫行』への言及(p. 37)、語りの構造、物語上の類似点。

(手紙3)

 ・夏、順調な航海。

(手紙4)

 ・「先週の月曜日(7月31日)」(p. 43)、船が氷と霧に囲まれて動けなくなる。→シェリーが生まれた1797年?

 ・犬橇を見かける。その後、氷が砕ける。翌朝、橇と漂流者発見、救出。前日に見かけた旅人を追跡中らしい。ウォルトンにとっての友となる。彼は自分の災難を語ることで「いい教訓が得られるかもしれない」(p. 55)と言う。

 

(1)

入れ子構造の語りの第2。ヴィクター・フランケンシュタインはジュネーヴの名家の生まれ。父親は零落した友人ボーフォールの娘、カロリーヌ・ボーフォールと結婚、イタリア、ドイツ、フランスを旅し、ナポリで語り手が誕生。「自分が生を与えた存在に対する深い義務感と、思いやりの気持ちに溢れていた二人」(p. 62)ゆえ、男はしっかりと成長。

・両親はミラノの貧しい農民夫妻の家にいた貴族の娘エリザベス・ラヴェンツァ(父:オーストリアからの独立を目指して戦ったイタリア人で消息不明、母:ドイツ人で産後すぐ死亡)を引き取る。「わたしたちは親しみを込めて、互いを従兄妹と呼び合いました」(p. 66)→初版では本当に従兄妹だった。

(2)

・二人仲良く育つ。7つ下の次男も誕生、ジュネーヴに家を買い、ベルリーヴに別荘。

・冒険や騎士道ロマンス好きのヘンリー・クラーヴァルと友人になる。

・13歳の時、コルネリウス・アグリッパを知り、錬金術や神秘思想に耽溺。

・15歳の時、落雷を目撃し、神秘的な思想を捨てて自然科学へと傾倒。が、運命の女神の導きによって破滅へ(p. 78)。

(3)

・インゴルシュタット大学へ行くことに決まるが、エリザベスが猩紅熱発症、看病した母も罹患して死亡。

・延期していたインゴルシュタットへの出発。自然科学のクレンペ教授は今まで錬金術師の本を読んでいたことを強く批判、ヴィクターは嫌悪感を抱く。対して化学のヴァルトマン教授は人柄がよく、錬金術師にも一定の功績を認め、フランケンシュタインは「現代の科学者への偏見が消えた」(p. 90)。

 

(4)

 ・ヴァルトマン教授によって改めて化学に開眼。2年間化学で優秀な成績を収め、次に生理学へ向かう。生命の起源と死の研究を始め、墓場に通い、ついに生命発生の原理を発見。

 ・知識を得ることがいかに危険で、それによって不幸がもたらされることを学んでほしい、と警告(p. 98)。

 ・8フィートの巨大な人間を作る計画。完成したら、創造主の自分は感謝されると思い、一心不乱に没頭。

(5)

 ・「11月のうら寂しい夜」(p. 105)に人造人間完成。美しく作る計画だった。黄色人種的?完成直後に急に恐怖と嫌悪感に襲われ、逃避、寝込む→奇怪な悪夢を見る。

 ・再び『老水夫行』からの引用(p. 109)。

 ・インゴルシュタットで学ぶことを許されたクラーヴァルに再会、様子を心配され、看病を受ける。

(6)

 ・クラーヴァルがフランケンシュタインに、心配しているエリザベスからの手紙を渡す→召使いのジュスティーヌ・モーリッツの話。スイス共和国では召使いの待遇も良い。弟のアーネストやウィリアムの話。その他。

 ・しかし、人造人間完成以来、科学には拒否反応が出ている。東洋の言語や文学に興味を持つクラーヴァルと共に自然に癒される。

(7)

 ・父からの手紙→弟のウィリアムが絞殺体で見つかる。所持品である母親の細密画が盗まれている。ヴィクターに帰郷を促す。

 ・帰郷の途上、スイスの崇高な風景描写。サレーヴ山に怪物の姿を認め、弟の殺人犯と確信。

 ・帰宅すると、ジュスティーヌが犯人にされ、逮捕されている。ヴィクターは怪物が本当の犯人と言ってもおかしな人間と思われるので、言えない。

(8)

 ・ジュスティーヌの裁判。寝ている間にジュスティーヌのポケットに細密画が入っていた状況証拠に加え、ジュスティーヌは罪を認めれば許されると思って自白してしまう→すぐ処刑。胸引き裂かれるヴィクター。

(9)

 ・陰鬱な気分に苦しめられ、それを振り払うべくシャモニーの谷へ向かう。

(10)

 ・崇高な風景による慰め、癒し。突如、被造物と出会い、話を聞くことを求められる。

(11)

 ・怪物の語り。語りの枠構造3つ目。誕生後、森へ行き、放浪。諸感覚の描写。人々に迫害を受ける。小屋に非難、そこから隣家の住人を観察。

(12)

 ・隣人の言葉を次第に学び、彼らは父とその息子フェリックス、娘のアガサであると分かる。感情の発達。言語の学習。時にはフェリックスの仕事をひっそり手伝う。

(13)

 ・隣家にアラビア人女性サフィーが訪れる。共に被造物も言語、文字を学ぶ。ヴォルネー『諸帝国の滅亡』で歴史や社会、人間の愚かさを学ぶ。知識がもたらす苦悩、友や血縁がいないことの辛さ。

(14)

 ・隣家の住人はフランスの良家ド・ラセーと分かる。サフィーの父であるトルコ人商人が宗教と富を理由に不当な判決を下され、フェリックスはこれを助けようとし、サフィーと出会う。サフィーの母はキリスト教徒のアラブ人。イスラム教における女性の地位の問題。サフィーの父は娘がクリスチャンと親密になることが嫌だったが、反対できない状況。その後、フランス政府により、ド・ラセー一家は国外追放。サフィーの父は娘を連れて逃げるが、サフィーはトルコへ戻りたくなく、フェリックスに会いにくる。

(15)

 ・人間の美徳と悪徳を学ぶ。3冊の本を拾う→『若きウェルテルの悩み』で高尚な精神や感覚を学んで感動。『プルターク英雄伝』には思想の崇高さを学び、平和を愛する立法者を崇める。『失楽園』を読んでアダムやサタンを自らに重ねる。

 ・ポケットにヴィクターの日記を見つけて解読。「呪われし創造主よ!おまえすらも嫌悪に目を背けるような酷い怪物を、なぜつくりあげたのだ?」(p. 234)創造主に見捨てられ、イヴもいない。

 ・勇気を出して盲目の老人ド・ラセーに会い、会話。同情を得るが、帰宅した息子たちに驚かれ、追い出される。

(16)

 ・その後、ド・ラセー家はこの家を出て行く。人間への復讐心、怒り。

 ・その後も人間から「善意の報い」(p. 252)を受ける。ウィリアム・フランケンシュタインを殺害。美しい肖像画を奪うが、ジュスティーヌのポケトに忍ばせる。美しい女性との出会いが醜い自分には奪われている恨み。醜い伴侶を作ることを要求。

(17)

 ・枠構造の語り2つ目、ヴィクターの語りに戻る。怪物は醜い伴侶を作ってくれれば人間のもとには現れず、危害を加えないと訴え、ヴィクターはついに心を動かされ、約束する。そして、帰宅。

(18)

 ・女性の被造物製作はおぞましく、中々作業に取り掛かれない。やがて父はエリザベスとの結婚をヴィクターに提案、そのためにも伴侶の製作を急がねばならず、その研究のため、イングランドへ旅立つ決意。途中からクラーヴァルが付き添い、彼の自然賛美。ワーズワースの引用(p. 279)。

(19)

 ・イングランド着、さらにスコットランドへと旅。クラーヴァルとは別れ、一人オークニー諸島で作業することにする。作業に夢中になっている時もあれば、落ち着いた時に嫌悪感を催すことも。

(20)

 ・女性の伴侶を完成させた結果を恐れ始め、製作過程を覗く被造物の表情を見て破壊。怒れる被造物「おまえはおれをつくったが、今はおれが主人だ」(p. 298)→立場の逆転。「お前の婚礼の夜に、きっと行くからな」(p. 299)→以後、ヴィクターの脳裏にこびりつく言葉。やがて消える被造物。ヴィクターは女性の伴侶を海に捨てる。→現地人に疑われ、治安判事のもとへ。

(21)

 ・昨晩、首を絞められた男性の遺体が発見されており、不審な船の目撃証言からヴィクターが疑われている。

 ・遺体はクラーヴァル、ヴィクターはショックで気絶、二カ月病に伏す。

 ・父親が面会に来る。嫌疑は棄却され、アイルランドから故郷へ帰り、家族を守る決意。

(22)

 ・途上、パリでエリザベスから手紙→できれば早くヴィクターと結婚したい。→ヴィクターも結婚し、被造物との問題を決する覚悟。

 ・帰郷。結婚式の後、船旅へ。

(23)

 ・到着した宿を調べているうちにエリザベスがベッドの上で殺される→フューズリ「夢魔」。

 ・窓から覗く被造物→ピストルを発砲。

 ・ジュネーヴに戻ると父はこの不幸にショックで死亡。

 ・治安判事に怪物を告訴→本気にしてはもらえず。自分の力でやらねば。

 

(24)

 ・復讐心の塊となって被造物を追跡、北へ。両者橇を使って北極で逃走劇を繰り広げている最中、ウォルトンに救助される。自分が死んだら代わりに怪物にとどめを刺してほしい。

 

(ウォルトンの手紙の続き)

 ・第1の語りの枠構造。ヴィクターは怪物の生理構造を教えることで不幸を繰り返したくない。自分の話をウォルトンがメモしたものを正確に修正。

 ・9月5日の手紙。乗組員は氷が砕けて船が動けるようになったら南へ帰るべきと主張→ヴィクターは彼らに檄、ウォルトンも不名誉な撤退をしたくない。

 ・9月7日の手紙。「臆病風に吹かれ、優柔不断となったため」(p. 385)、撤退に同意。

 ・9月11日の手紙。ヴィクターは被造物に幸福を保証する責務があったが、それ以上に人間への義務があったと感じている。無理は言えないが、代わりに被造物を滅ぼしてほしいと告げて息を引き取る。その後、怪物がやってきてヴィクターの遺骸を見つめている。「こいつが死んで、おれの犯罪は完成した」(p. 392)。つらい思いによって善良な心はねじ曲がった。「悪が逆転して善となった」(p. 394)。ヴィクターの死によって復讐という存在意義を失った被造物は自殺すると予告して船を飛び出し、海の彼方へ消える。